第35回「住まいのリフォームコンクール」審査講評
(公財)鹿児島県住宅・建築総合センターの主催する「住まいのリフォームコンクール」は今年で35 回目となった。このコンクールは、住まいのリフォームの優れた事例を表彰し、住宅の 改修を推進することを目的としている。今年の応募作品は、築50 年以上のリフォーム作品が4 作品あり、それらの内3 件が知事賞、理事長賞、企画賞を受賞した。一見、もう使えないので はと思われる古民家を、施主の思いや設計者の気づき、施工者の工夫により、見事にリフォームされ、新たな命が与えられていた。審査終了後、応募作品数が減少したことについて、委員から、 コンクールに応募する時間がとれないほど設計者・施工者とも多忙でゆとりがないとの声があがり、応募提出書類をより簡易化する予定である。建設工事費が高騰してるため、新築が減少傾 向にあることからも、次年度のこの「住まいのリフォームコンクール」の応募数が増えることを期待したい。
今年の夏は、気象庁が全国の平均気温(6~8 月)は平年より2.36 度高く、統計のある1898 年以降で最も暑かったと発表した。昨年も暑い夏だったが、流石に「これからどうなるのだろうか」 と地球温暖化が気になる方も多いのではないだろうか。そのような8 月末の鹿児島、山下町の築94 年の鹿児島県教育会館のお別れ見学会が行われた。中央公園に面し付近にも歴史的建造物が 多い景観地区で、ランドマークになっていた鹿児島県教育会館が解体されRC 造のマンションに建て替えられるプロジェクトが進んでいる。昨年の審査講評で触れたオペレーショナルカーボン (運用時のCO2 排出量)とエンボディドカーボン(解体・新築・改修によるCO2 排出量)(注1)の点から、解体建替により膨大なCO2 排出量され、地球温暖化を促進するだけでなく、 鹿児島の文化ゾーンの景観が大きく損なわれることになる。この事象に至った経緯として2 つの理由が考えられる。一つは鉄筋コンクリート造の寿命に関する誤解がある。2017 年の日本建築 学会広島大会で、鉄筋コンクリート造の中性化は直接には寿命とは関係ないことが明らかになりJASS5(注2)が改定された。京都では築90 年の建築が再生され、ホテルとして人気を博しており、 築60 年以上経過した東海道新幹線は、鉄筋コンクリートの高架部分を今でも時速280 ㎞で走っており、鉄筋コンクリート造の寿命は決して50 年ではなく、百年経っても管理を適切に行うこ とにより十分利用することができることが、社会に浸透していない。もう一つは、再生活用の検討期間の短さである。鹿児島県教育会館の場合、2023 年10 月に、保存し活用してくれる新た な所有者の募集をはじめたが、2024 年8 月に購入し保存活用してくれる方が見つからなかったので解体してマンション事業者に売却することを決定した。この間、約10 ヶ月である。マンション 事業の場合は、解体費を算出し地域需要に応じたマンション新築計画を立案、資金計画までの検討に、3~6 ヶ月程度の短期間での判断が可能であるが、歴史的な鉄筋コンクリート造建築の 活用では、歴史的経緯の調査、コンクリートの状況確認、耐震補強方法の検討、新たな活用用途の検討と運営会社とのマッチング、銀行融資まで含めると、1 年でもなかなか難しいのである。 実際には2~5 年の期間が適切で、壊したくないので民間会社の提案を求めるという方法が、今回含めて都城市民会館や羽島市庁舎等々と同様、壊す免罪符となってしまっているのが非常に 残念である。鹿児島県教育会館は、財団の経済的な理由があったのだろうが、やはりさらに時間をかけて再生の募集を継続すべきだったのではないだろうか。
さて、今年度の審査委員会は8月26 日に開催され、最初に審査委員全員の7 名が11 件の応募作品を各自、読み込んだ後、一人5 票を各 作品に投票したところ、7 票2 作品、4 票2 作品、3 票2 作品、2 票2 作品、1 票3 作品となった。まず、満票の2 作品について意見交換し、 知事賞と理事長賞を決定した。そして、今回唯一の耐震を主とした作品を特別賞とした後、その先はなかなか優劣がつけにくく意見交換を 重ねたが、3 票以上の作品4作品で、再度、投票を行った。その結果、得票順に、1作品を企画賞とし、残りの3作品を奨励賞に決定した。 審査終了後、各応募者・設計者・施工者が事務局より審査員に開示され、また、今後のコンクールの募集内容等について意見が交わされた。
審査講評
住まいのリフォームコンクール審査委員会
委員長 鯵坂徹[元鹿児島大学工学部教授]
審査委員
| 委員長 | 鯵坂 徹 元鹿児島大学大学工学部教授 |
|---|---|
| 委 員 | 八反田 淳一 (一社)鹿児島県建築士事務所協会会長 |
| 委 員 | 本坊 美保 (公社)鹿児島県建築士会女性部会副会長 |
| 委 員 | 西村 昭一 (一社)鹿児島県建築構造設計事務所協会会長 |
| 委 員 | 岩元 ミユキ 鹿児島県インテリアコーディネーター協会会長 |
| 委 員 | 瀬戸 司 鹿児島県土木部建築課住宅政策室室長 |
| 委 員 | 高崎 智幸 (公財)鹿児島県住宅・建築総合センター理事長 |
| 第35回「住まいのリフォームコンクール」入選作品集 |
鹿児島県知事賞:『風土の家-地域を表現するアートとしての建築再生-』
築90 年の古民家にシェフが移住するプロジェクト。漁港の水揚げ鋼製箱からイメージして、外装にシルバー鋼製板を用い、外観をさながら現代建築のように一変させた作品である。審査では満票の2 作品の中からデザイン的に優れていること、インテリアが一部残されていること等々から、審査員全員の賛同で知事賞に選ばれた。また、全面リフォームでありながら、減築と既存内装の部分的な活用によるコストダウンにより、18 万円/ ㎡で実現している点や、屋根の軽量化と耐震壁の設置による耐震補強等も評価された。一方、設計者に対しては、「閉じた空間になっている。外との繋がりがどうなっているか」「竿縁天井を撤去し吹抜としたので小屋組上部の暖気の輻射で暑いのではないか」「縁側が環境的な緩衝空間としてより活用することを考えてほしかった」等の意見もあり、次のプロジェクトに反映いただき、さらなる受賞を目指し応募いただけることを期待したい。
| 『風土の家-地域を表現するアートとしての建築再生-』 | atelier SALAD |
(公財)鹿児島県住宅・建築総合センター理事長賞:『昔の面影を残しながら家族の思いと今をつなぐ』
30 年程空き家となっていた廃屋に近い築百年の古民家の再生。厩(うまや)も居住空間とし、主屋との間にリビングルームを設け、2 つの続き屋を一つの民家として活用している。審査会では、「壊れかけていた古民家に新築できるような工事費をかけてリフォームしており、地元や祖父母への思いの深さが伝わる」「郊外の空き家の改修例として発信性がある」等々が話題となった。断熱材の設置、複層ガラスの建具の採用、さらに一部の構造補強を行った上で、内部の素敵なインテリアもさらに評価された。この作品も竿縁天井を撤去し吹抜としており小屋組上部の暖気の輻射が若干心配である。
| 『昔の面影を残しながら家族の思いと今をつなぐ』 | ヤマサハウス株式会社 |
企画賞:『次の世代へ託す未来へのバトン』
この作品は、祖父母・両親や地元への思いから、厩(うまや)をリフォームしたプロジェクトである。主屋は解体し、厩(うまや)だけを残し、省エネ基準を満たす断熱工事と耐震補強を行い週末住宅として活用されている。外装に旧来のイメージを残した方がより良いのではないかとの意見が審査員からあったが、腐朽した主屋のリフォームをまずあきらめて、厩(うまや)のみの再生に転換して既存建築の一部を活用、結果として効果的な改修となっていることが、企画賞にふさわしいアイデアと評価された。
| 『次の世代へ託す未来へのバトン』 | 株式会社正匠 |
奨励賞:『スタイリッシュな暮らしを求めて』
築35 年の鉄骨鉄筋コンクリート造、4LDK の85 ㎡のマンションをリフォームして、廊下壁面に十分な収納を設けた1LDK に改修した作品。広々としたLDK だけでなく、寝室と収納の関係をはじめ使いやすそうな改修後の平面計画に好感が持てる作品である。マンションのリフォーム工事は上下階への影響が大きいが、近隣への事前の告知を行い進めた点や収納の配置、エントランスの設え、インテリアのモダンなデザインも評価される。
| 『スタイリッシュな暮らしを求めて』 | 徳永建築事務所 |
奨励賞:『年代物の梁をキャットウォークに 猫と暮らす家』
築80 年の古民家のフルリノベーションの作品。外内装ともほぼ古民家のイメージを払拭したデザインで、旧来の梁(鴨居)が天井下に残され、猫のキャットウォークになっている。屋根、外壁、床に断熱が施工され、窓にもLow-E複層ガラスの建具が設けられた堅実なリフォームで、こどもエコすまい支援事業補助金も利用されている。審査員からは、しっかりしたリフォームで、かつ「テーマ性があり、ユニークな作品」として評価された。外観は、応募書類の隣接した伝統建築に調和したデザインもあったのではないだろうか。
| 『年代物の梁をキャットウォークに 猫と暮らす家』 | ヤマサハウス株式会社 |
奨励賞:『回遊動線のあるくらし』
築45 年の中廊下型の平屋木造住宅を改修した作品。対面キッチンのLDK を南東部分に配置し、ファミリークローゼットやドライルームを西側に設け、主寝室、洗面、脱衣室が回遊動線により結ばれている。家事動線に配慮した利便性の高い機能的な平面計画にリフォームされていることが評価される。外観は瓦を残して外壁を黒い素材で覆い、現代風に改修されている。応募書類からは周辺の状況や外観の様子が詳しくは確認できないが、リフォーム前の外観が地域の景観に馴染んでいるような印象も受け、全体の外観イメージにもうひと工夫あると、なお一層良かったのではなかろうか。
| 『回遊動線のあるくらし』 | 有限会社幸福住建 |
特別賞:『地震から命を守る耐震シェルターを設置しませんか。』
築40 年の在来木造に耐震シェルターを設けた作品。自身での避難が難しい場合は、耐震シェルターは命を守るために有効な方法の一つで、補助制度を設けている自治体が県内にいくつか確認される。これらの耐震シェルターは、既製品として販売されているものも多いが、設置場所の既存の平断面や構造を調査確認し、既存との取り合いの工事を行った上で設置することが求められる。この作品は、その設置までの工事が詳しく応募書類に記載されており、特別賞とした。
| 『地震から命を守る耐震シェルターを設置しませんか。』 | 野津建築設計事務所 |
